虫歯が悪化してしまい、歯の表面のエナメル質の内側にある象牙質や歯の神経といわれる歯髄にまで虫歯菌が侵入することで、歯は痛みを感じます。しかし、中には虫歯ではないのに歯が痛いと感じる場合があります。その場合、原因は歯にないのですが、歯科医院によってはハッキリした痛みの原因を診断できないため、歯を削ったり、神経を抜いたりする場合もあり、最悪の場合は抜歯をすることになってしまうこともあります。
しかし、当然のことながら原因は歯にないので、抜歯をしても痛みは治らないのです。こういったトラブルが起きないためにも、歯の痛みの原因を明らかにすることがとても大切です。 では、虫歯ではないのに歯が痛むのは何故なのでしょうか。歯や歯周組織に異常がない状態にも拘わらず、歯に痛みを感じる状態を【非歯原性歯痛】といいます。
口・顔・頭の痛み外来とは
近年、大学歯学部付属病院などで「口・顔・頭の痛み外来」ができています。この外来は、歯科の痛み専門医のほかにも、脳神経外科医や耳鼻咽喉科医、麻酔科医、精神科医が揃っており、痛みの原因を総合的に診断し対応しています。こういった外来で診てもらう事も一つの選択肢とすることも良いでしょう。
非歯原性歯痛
非歯原性歯痛とは、歯や歯周組織に異常が見られないにも関わらず、歯に痛みを感じる状態のことをいいます。非歯原性歯痛は、原因により分類されます。そのため、治療法も原因によって異なってきます。日本口腔顔面痛学会のガイドラインでは、非歯原性歯痛の原因を8つに分類しています。
筋・筋膜性歯痛
筋・筋膜性歯痛は、食べ物を咀嚼するための筋肉や首の筋肉と、これらの筋肉を覆う筋膜の痛みが原因で歯の痛みとして感じる関連痛(痛みを感じる場所から離れた場所が痛くなること)です。痛みは主に上下の奥歯に感じます。鈍い痛みが1日中続く方もいれば、痛みが出たり治ったりする方もいます。大きな特徴として、筋肉中に痛みのポイントがあり、ここを指などで押すと痛みを生じ、そしてこの痛みのポイントを5秒程度押し続けると、歯痛が生じてくるのです。対処法としては、筋肉を酷使した結果起こる症状のため筋肉のストレッチやマッサージにより筋の血流を良くして、筋肉の凝りを解消していくことで改善されます。急性である場合、消炎鎮痛剤を服用する場合もあります。
神経障害性歯痛
神経障害性歯痛は、末梢から中枢に至るどこかの神経に障害が生じることが原因で起こる歯の痛みで、発作性神経痛と持続性神経痛に分けれます。発作性神経痛は三叉神経や舌咽神経が原因で起こる痛みで、瞬間的にとても強い痛身を感じます。持続性神経痛は、帯状疱疹と帯状疱疹後の後遺症による神経痛が主な原因といわれています。さらに、神経周囲の炎症や腫瘍、骨折などにより神経が障害されることが原因で起こる場合もあります。
神経血管性歯痛
頭痛の関連痛として起こる歯の痛みです。神経血管性頭痛の中でも最も多いのは片頭痛による痛みです。歯髄炎と痛みが似ているため、判別するのが難しいです。
上顎洞性歯痛
左右の上顎の上にある骨の中の空洞のことを上顎洞といいます。副鼻腔のひとつである上顎洞が風邪などで炎症を起こすことにより、歯痛が起きることがあります。これを上顎洞性歯痛といいます。
心臓性歯痛
狭心症や心筋梗塞、心膜炎などの心臓の病気が原因で起こる関連痛です。動脈解離や心膜炎が原因で歯痛が生じた例もあり、痛みは発作的に生じ、特に歩行などの運動との関係性が認められます。そのため、迅速に心疾患の治療をおこなう必要があるため、すぐに心臓の専門医を受診してください。
精神疾患または心理社会的要因による歯痛
不安や気分が落ち込むなどの、精神的な疾患が歯の痛みとして現れることをいいます。統合失調症、うつ病などでも歯痛を生じるため、精神科での受診が必要な疾患です。
特発性歯痛
さまざまな検査をしても原因がわからない歯の痛みのことをいいます。歯原性歯痛ではなく、さらに非歯原性歯痛のどの分類にも明確に当てはまらない歯痛ですが、時間の経過によって症状が変化して、原因が明確になる場合もあります。
非歯原性歯痛の診断
歯痛の原因が非歯原性歯痛かどうかを診断をするには、まず、歯科医院で虫歯や歯周病などはないか問診や視診、エックス線検査などで調べます。検査の結果、もしも歯や歯周組織に問題がない場合は、8つの非歯原性歯痛の原因にあてはまる症状がないかを、さらに詳しい問診や触診、また場合によってはCTスキャンやMRIなどの検査をして鑑別します。 その際、非歯原性歯痛の検査は、専門医がいない歯科ではおこなうことができない場合があります。非歯原性歯痛かどうかを検査する際は、歯科口腔外科に問い合わせるか、または日本口腔顔面痛学会のホームページを参照することをお勧めいたします。