急な事故や怪我、虫歯や歯周病などで歯を失ってしまった場合に、歯の機能や見た目を回復させる治療が必要になります。その場合、インプラントや入れ歯、ブリッジなどの補綴治療をおこなうことが一般的なのですが、場合によってはご自身の歯を失った歯の部分に移植する「自家歯牙移植」が可能なケースもあります。自家歯牙移植は他の歯に対して関与していない親知らずなどを抜歯して移植する治療法です。予後の経過が良好であれば10年以上使用することも可能ですが、平均的には5年〜10年程度といわれています。またメリットやデメリットもあるため、それらを踏まえた上で治療をおこなうことをお勧めいたします。
自家歯牙移植のメリット
自家歯牙移植の大きなメリットは歯根膜の存在です。歯根膜は歯と歯槽骨を繋いでいる繊維組織で、噛んだ際に歯に伝わる力を分散するクッションのような働きをしたり、食べ物の噛みごたえを感じるといった働きを担っています。抜歯する際に、歯と一緒に歯根膜も同時に移植することが可能なので、天然歯と変わらない自然な噛み心地を得ることができ、咬合力が調整できることから噛み合う歯を傷つけてしまうこともありません。また、ご自身の歯を使用するため、アレルギーといった拒絶反応などのリスクもほとんどないこともメリットです。さらにインプラント治療のような年齢制限もなく、若年者にも適用可能なこともメリットといえます。他にも移植する歯が親知らずで、なおかつサイズが同じという条件はありますが、条件を満たしている場合は保険適用での治療が可能なことから、経済的負担を軽減することもできます。
自家歯牙移植のデメリット
自家歯牙移植は、虫歯や歯周病のない健康な歯であることや、他の歯に関与することのない歯であること、歯を失った部分に対して移植する歯が納まる大きさで、且つ移植する部分の骨量が十分あることなどの条件を満たしていないとおこなうことができません。また、歯を失ってしばらくの期間放置してしまった場合や、高齢者の方の場合は失った部分の顎の骨が吸収していることも多く、移植後に歯根膜が上手く付着せずに歯が脱落してしまうリスクもあります。歯を失って1ヶ月以上経過すると移植する部分の穴が塞がるので、再度穴を開けることが必要になるため、移植の治療時間が長く、治療後の痛みや腫れが大きかったり、傷の治癒が遅くなる可能性もあります。さらに、医師の高度な技術が必要になり、適応症例や術式、術後の管理などによって成功率が変わるので注意が必要です。
自家歯牙移植の注意点
口腔内を清潔に保ちましょう
自家歯牙移植の治療後は、ご自身での歯磨きなどのセルフケアを適切におこない口腔内を清潔に保つことが重要です。セルフケアが不十分で食べカスや歯垢(プラーク)などの磨き残しが増えてしまうと、雑菌が増殖して口腔内が不衛生な状態になってしまいます。歯垢などの細菌が増えてしまうと歯茎が炎症を起こしやすくなるため、移植した歯を体が受け入れられず排除してしまい歯が抜け落ちてしまう可能性もあります。移植を成功させるためにも、移植前には口腔内の健康状態の確認をおこない、もしも虫歯や歯周病がある場合は先に治療することが必要になります。また、ご自身での正しいセルフケアをおこなうとともに、定期的に歯科医院での健診や歯のクリーニングを受けて口腔環境を整えることが大切です。
移植後はなるべく安静にしましょう
自家歯牙移植の治療後は、移植した歯と顎の骨が結合するためにもなるべく安静にすることが大切です。食事や会話をする際は注意して、移植した歯が動かないようにしっかり固定することが重要になります。この固定がしっかりとできていない場合、歯を支える歯周組織がうまく再生せず骨との結合ができなくなり、歯の移植が失敗してしまう可能性もあるのです。移植した歯を固定する期間は個人差がありますが、一般的に1ヶ月程度の安静が必要となります。
ただし固定期間は長過ぎても短すぎてもいけないため、適切な期間で固定をおこなうことが移植の成功に繋がります。また移植の治療後は、医師の指示があるまでは必要以上にうがいや歯磨きをしないように気を付けましょう。移植後の当日から翌日にかけての食事は、処置をおこなっていない部分で食事をしてください。もしも左右の歯の処置をおこなった場合は、ゼリーなどの噛まなくても良い食べ物がお勧めです。2日目ぐらいから徐々に柔らかめの固形物を摂ると良いでしょう。
まとめ
歯を失った際の治療の選択肢の一つである自家歯牙移植は、歯根膜があることで移植後は天然歯と変わらない噛み心地を得ることが可能です。ただし、治療には条件があることや、寿命がそれほど長くないといったデメリットもあります。もしも自家歯牙移植をおこなった歯が抜けてしまっても、インプラントといった選択肢もあります。インプラントは、メンテナンス次第では半永久的に快適に使用することも可能な治療法です。これらを理解した上で、補綴治療をお考えの方は一度歯科医院を受診することをお勧めいたします。