急な事故や怪我、虫歯や歯周病などが原因で、ご自身の歯を失ってしまった場合に、インプラントは歯の機能を取り戻すことが可能な治療法として、多くの方が治療をおこなっています。また近年では、見た目の美しさといった審美面の向上のためにインプラント治療を受ける方もいらっしゃいます。機能面や見た目が優れていることから「第二の永久歯」と呼ばれているインプラントですが、天然の歯と比べるとやはり様々な違いがあります。インプラントと天然の歯の違いをご説明いたします。
インプラント治療とは
インプラント治療は、失ってしまった歯の部分の顎の骨に、チタン製のインプラント体(人工歯根)を埋込する外科手術をおこない、インプラント体が顎の骨としっかりと結合するための治癒期間(3ヶ月〜6ヶ月)を経てから、人工歯を取り付けることで歯の機能を取り戻す治療法です。チタン製のインプラント体が、顎の骨と直接結合する「オッセオインテグレーション」を利用した治療法のため、天然の歯と同じように物を噛むことができ、噛んだ刺激は顎の骨を通じて脳に直接伝わります。そのため、歯を失うことで顎の骨が痩せてしまう「骨吸収」を防ぐこともできます。
インプラントと天然の歯の違い
歯根膜の有無
天然の歯は顎の骨に支えられていますが、直接骨に接しているわけではなく、歯根膜と呼ばれる沢山の細かな靭帯によって支えられています。歯根膜とは、歯根と骨を繋ぐ線維性結合組織で、「歯周靭帯」とも呼ばれています。厚さは0.15~0.38mm程度の薄い膜で、膜の厚みは常に一定に保たれています。歯根膜には知覚神経が存在しているため、噛む際に過剰な力がかかった際に、歯が動くことで力を逃がすクッションのような役割をしており、顎の骨や歯にダメージが及ばないようになっています。しかしインプラントには、この歯根膜が存在せずに、インプラント体と顎の骨が直接接触しているため、噛む力によって歯が動くことはほぼありません。そのため、噛み合わせに問題がある場合は、過剰な力が直接インプラント体を通じて顎の骨に伝わってしまうため、強い負荷がかかってしまいます。
知覚神経の有無
歯根膜の中には、噛む力を感知する知覚神経が通っているため、固いものは強く噛み、柔らかいものは弱く噛めるように、体が反射的に力をコントロールする反応を起こします。しかし、インプラントは歯根膜が無いため、過剰な力が加わってしまっても反応することができないため回避できません。その際に、噛み合わせをしっかりと調整することで、特定の歯に強い負担がかからないように分散することができます。他にも、歯ぎしりや食いしばりの癖のある方はインプラントだけでなく、その他の歯も痛めてしまう原因になってしまうため、就寝時にナイトガード(マウスピース)を使用することをお勧めいたします。ナイトガードの使用は歯ぎしりの対策だけでなく、顎関節の負担を軽減することができるため、顎関節症の予防にも繋がります。
血流供給の有無
歯根膜には知覚神経だけでなく血管も通っており、天然歯は歯根膜、歯槽骨、歯茎から血流供給を受けています。そのため、もしも細菌による炎症が起きてしまっても、血液中の白血球が防ぐ働きをしています。しかしインプラントの場合、血流供給が歯槽骨と歯茎からしか受けることができないため、天然の歯よりも抵抗力が低くなってしまい、歯垢や歯石による歯茎の炎症が起きると悪化しやすい傾向にあります。さらに天然の歯の歯茎には、歯根面に対して水平、垂直方向に繊維が付着しているのですが、インプラントの場合は歯根面に対して水平方向の繊維の付着しかないため、付着力は弱く剥がれやすいので、インプラントの歯周病である「インプラント周囲炎」になってしまい、細菌が深部まで侵入して土台の骨を溶かしてしまうことで、インプラントが脱落してしまう危険性もあるため、注意をしなければインプラントの寿命を縮める結果となります。
まとめ
失ってしまった歯を補填する治療法は、インプラント以外にも入れ歯やブリッジなどの治療法がありますが、顎の骨としっかりと結合するインプラント治療は、補填治療の中でも最も長く快適に使用できる治療法といえます。また、インプラントは日々進化しているため、天然の歯と同じように美しく、同じように物を噛むことができる優れた治療法ですが、やはりインプラントが天然の歯を上回ることはありません。インプラントには歯根膜がないため、天然の歯と比べると様々なリスクもあります。そのため、インプラント治療が終わった後も、ご自身でも正しいセルフケアをおこなうと共に、歯科医院での定期的なメンテナンスを受けることがインプラントのトラブルを予防し、長く快適に使用することに繋がるのです。