急な事故や怪我、虫歯や歯周病で歯を失ってしまった場合、歯の機能を取り戻す治療方法として、インプラント、入れ歯、ブリッジによる補填治療があります。歯を失ってしまうことは、口腔内だけでなく、身体にも様々な悪影響を及ぼしてしまいます。しかし治療の際に、どの治療を受ければいいのか分からないという方も多くいらっしゃいます。インプラント、入れ歯、ブリッジのそれぞれの特徴やメリット・デメリットを知ることが、ご自身に最も適した治療方法を選択するための、一つの基準になることと思います。
インプラントとは
インプラントとは、失ってしまった歯の部分の顎の骨にインプラント体(人工歯根)を埋入する手術をおこない、顎の骨とインプラント体がしっかりと結合してから、人工歯を装着する治療方法です。インプラント体を歯の根の代わりとして埋入するため、歯を完全に失ってしまった場合におこなう治療法で、歯の根が残っている場合におこなう差し歯治療とは異なります。
入れ歯とは
入れ歯とは、すべての歯を失った場合に使用する「総入れ歯」と、失った歯が1本から数本で、入れ歯を支えることができる歯が残っている場合に使用する「部分入れ歯」があります。総入れ歯は、床(義歯床)と呼ばれる歯茎の部分と、人工歯から構成されており、床が粘膜に吸着することで入れ歯を安定させる治療法です。部分入れ歯は、人工歯と床の他に、クラスプ(金属のバネ)やレスト(入れ歯の沈み込みを防ぐ装置)というパーツを、残っている歯に引っ掛けることで入れ歯を固定させる治療法です。
ブリッジとは
ブリッジとは、失った歯の部分の両隣の健康な歯を支柱として、橋をかけるように人工歯を装着する治療方法です。人工歯を安定させることができますが、両隣の健康な歯を削らなければいけません。また、奥歯を失ってしまった場合に、隣に歯がない場合はブリッジ治療はおこなうことができません。
インプラント、入れ歯、ブリッジ、それぞれの特徴
噛む力(咀嚼力)
補綴治療の咀嚼力を、天然の歯とそれぞれ比較すると、インプラントの場合は90%程度、入れ歯の場合は総入れ歯が20%程度、部分入れ歯が40%程度、ブリッジの場合は60〜70%程度と、インプラントは天然の歯とほとんど同じくらいの力で噛むことができます。しかし総入れ歯は、天然の歯と比べると20%程度の力でしか噛むことができないため、固い食べ物などは食べることが困難になってしまいます。
審美性(見た目の美しさ)
インプラントは、周囲の歯に合わせた形や色の人工歯を選択できるため、見た目も天然の歯と変わらないキレイな仕上がりになります。しかし、入れ歯とブリッジは保険適用の治療をおこなった場合、レジンや銀歯、金属製のクラスプなどを使用するため目立ってしまいます。その際に、保険適用外の材質を使用することで、天然歯に近い見た目の人工歯にすることも可能です。
費用
インプラントは、基本的に保険適用外治療(自由診療)となるため、費用は全額自己負担となります。そのため、入れ歯やブリッジと比較すると高額になりがちです。入れ歯やブリッジの場合、保険適用の治療であれば、費用を抑えることも可能です。しかし、見た目の美しさや機能性の面で保険適用外の入れ歯やブリッジ治療を選択する場合は、費用が高額になってしまいます。
お手入れのしやすさ
インプラントは、天然の歯と同じように歯ブラシやデンタルフロスなどを使用することができるため、しっかりとお手入れをおこなうことで口腔内を清潔に保つことができます。ブリッジの場合も、天然の歯と同じようにお手入れできますが、歯ブラシが届きにくい箇所ができてしまったり、天然の歯と人工歯の間に食べカスなどが詰まりやすいため、虫歯や歯周病のリスクが高くなってしまいます。入れ歯の場合は、義歯用ブラシや義歯洗浄剤を使用したお手入れが必要となるため、毎食後に外してお手入れしなくてはいけません。お手入れを怠ってしまうと、口臭や変色などの原因になってしまいます。
周囲の歯への影響
インプラントは、インプラント体を顎の骨に埋入して人工歯を支えるため、他の歯に影響を与えることはほとんどありません。入れ歯は総入れ歯であれば、床が粘膜に吸着することで入れ歯を安定させるため、周囲への影響は少ないのですが、部分入れ歯の場合、健康な歯にクラスプをかけて支柱とするため、支柱となった歯に負担がかかってしまいます。ブリッジの場合は、人工歯を支えるために失った歯の両隣の歯を大きく削って支柱とするため、削られた歯に大きく負担がかかってしまい、折れてしまうこともあります。また、場合によっては神経を抜くこともあるため、健康な歯の寿命を短くしてしまいます。
外科的措置
インプラントは、顎の骨にインプラント体を埋入する手術が必要になります。入れ歯とブリッジは、特に手術の必要はありません。
口腔内の違和感
インプラントは、顎の骨にインプラント体を埋入し、骨とインプラント体がしっかりと結合することで天然歯に近い使用感となるため、違和感を感じることはほとんどありません。またブリッジも両隣の歯を支柱とするため、安定感があり違和感や痛みを感じることがほとんどありません。しかし入れ歯は、義歯が大きく厚みもあるため、口腔内の違和感を感じたり、えずいたりすることがあります。さらに、総入れ歯は粘膜で義歯を支えているため、使用しているうちにズレたり痛みを感じたりすることも少なくありません。
人工歯の寿命
インプラントは、治療後の定期的なメンテナンスをおこなうことで、10年以上も問題なく使用することが可能です。しかし、入れ歯は3年ほど使用すると痛みが出ることがあり、5年ほど使用したら入れ歯を交換することが推奨されています。ブリッジの場合は、入れ歯よりも長く使用することが可能ですが、支柱にした歯に負担がかかってしまうため、虫歯になったり折れたりしてしまう可能性もあります、その場合は再治療もしくは別の補綴治療が必要になることがあります。