インプラント治療において、顎の骨はとても重要な役割を担っています。インプラント治療は、失った歯の代わりにインプラントを埋入することで失った歯を補う治療方法です。失った歯の部分の歯茎を切開し、顎の骨に穴を開けてチタン製のインプラント体を埋入して、インプラント体に上部構造(アバットメントと人工歯)を取り付けるのですが、その際にインプラント体を埋入するだけの十分な顎の骨の量や骨の厚さが必要となります。顎の骨の量や厚さが十分ではない場合、インプラント治療はおこなうことが出来ません。 それでは顎の骨が痩せていくとはどういうことなのでしょうか。またどうして顎の骨は痩せてしまうのでしょうか。ご説明いたします。
顎の骨が痩せる(骨吸収)
歯と歯茎が健康な状態であれば、顎の骨には十分な量や厚さがあります。それは、食べ物を噛むという「咀嚼」により顎の骨を刺激し続けているからです。しかし、歯が抜けてしまうなどの歯を失ってしまうことにより、失った歯の部分からの刺激は顎の骨に伝わらなくなってしまいます。 元々人の体は、刺激を与えられなくなった部分は衰えていくという特徴を持っているため、歯が抜けたまま放置していることで刺激を与えられなくなったその部分の顎の骨は衰えて、次第に痩せてしまうのです。これを骨吸収といいます。
骨が作られる仕組み
私たちの骨はずっと同じままではなく、常に新しい骨に作り変わっています。古くなった骨に含まれるカルシウムやコラーゲンを分解し吸収する働きをする破骨細胞によって、古い骨が壊されることを骨吸収といいます。そして骨吸収された骨の表面にコラーゲンをつくり、その部分に血液から運ばれたカルシウムを付着させる働きを持つ骨芽細胞によって、新しい骨が作られることを骨形成といいます。この骨吸収と骨形成がバランスよくおこなわれることで、常に健康な骨が作られているのです。 骨が痩せてしまうというのは、この骨吸収と骨形成のバランスが崩れてしまっている状態のことをいいます。
顎の骨が痩せる原因
顎の骨が痩せてしまうのには、いくつかの原因があります。
歯周病が進行する
歯周病は、細菌の塊である歯垢(プラークが)、歯と歯茎の間の隙間(歯周ポケット)に侵入し、歯を支えている歯槽骨を破壊してしまうことによって、歯が脱落してしまうという病気です。初期段階の歯周病はほとんど自覚症状がないため、知らないうちに症状が悪化していることが多く、歯周病により破壊された歯槽骨は骨吸収をはじめるため、歯が抜けるまで歯周病が進行していた場合、骨吸収はかなり進んでいる状態だといえます。
歯を失ったまま放置していた
突然の事故や怪我などで歯を失ってしまったり、虫歯や歯周病が悪化してしまったことで歯を失ってしまった際に、抜けてしまったまま放置してしまうと、その部分の顎の骨が骨吸収をはじめてしまいます。
先天的に顎の骨が薄い
上顎の骨の上には上顎洞という大きな空洞があります。この空洞が生まれつき下の方にある場合、上顎の骨は薄くなってしまいます。
入れ歯などを合わない状態で使用していた
入れ歯が合わないまま使っていると、歯茎に無理な圧力がかかってしまうため、歯茎に負荷がかかり過ぎてしまうため、顎の骨が痩せてしまいます。圧力による刺激が有り過ぎても顎の骨は痩せてしまいます。
顎の骨を増やす治療方法
骨吸収が進んでしまい骨の量が少なくなったり、厚さが薄くなってしまった場合、歯を失ってしまってもインプラント治療をおこなうことはできません。インプラント治療を受けるためには、骨を増やす骨造成が必要になります。インプラントを埋入するのに十分な量や厚みになるよう、ご自身の体の骨や人工骨を用いて骨を増やします。 骨造成にはさまざまな方法があり、治療箇所や骨吸収の程度によって治療方法が違います。
ソケットリフト
ソケットリフトは、上顎の奥歯の骨量が足りない場合におこなう治療法です。ソケットリフトは、骨の高さが3~5mm以上あっても、インプラントを埋入できない場合におこないます。失った歯の部分に穴をあけ、歯槽骨と上顎洞の間にあるシュナイダー膜を持ち上げてスペースを作り、ご自身の体の骨や人工骨を入れて、インプラントを埋入するのに十分な骨の量や厚さを作る方法です。
サイナスリフト
サイナスリフトは、ソケットリフトと同様奥歯の骨量が足りない場合で、さらに骨の高さが3~5mm以下の場合におこなう方法です。 サイナスリフトの治療方法はソケットリフトと同じですが、歯茎の側面からご自身の体の骨や人工骨を入れて十分な骨の量や厚さを作ります。
GBR(骨誘導再生)
GBRとは、骨再生を促進する方法です。インプラント体を埋入した後に骨が足りない場所の歯茎を切開して、ご自身の体の骨や人工骨を入れ、メンブレンという特殊な人工膜で覆い、歯茎を戻し縫合して骨を再生させます。