インプラント治療は、インプラント体を歯茎に埋入する外科手術を伴います。精確で安全な治療をおこなうためには、歯科医院での徹底した衛生管理や、高度な設備環境、医師の豊富な知識や高い技術が必要になります。さらに、治療後のご自身でのセルフケアとともに、歯科医院での定期的なメンテナンスを受けることも長期間快適に使用するために重要です。しかし、インプラント治療は手術を伴うことから、リスクは全くないとは言い切ることはできず、場合によっては口腔内のトラブルを引き起こしてしまうこともあるのです。トラブルの原因は様々ですが、適切に対処することでトラブルが起きるのを未然に防ぐことも可能です。
インプラントの口腔内トラブルと対処法
神経や血管の損傷
稀にインプラント手術をおこなった際に、誤って神経や血管を損傷してしまうことがあります。特に、下顎は大きな神経や血管が走行しているので、もしも神経を傷つけてしまうと、神経麻痺を起こしてしまい唇や頬の感覚が鈍くなったり痺れたりすることがありますし、血管を傷つけた場合は深刻なトラブルを引き起こしてしまう危険性もあるのです。この場合、インプラント体を埋入するための十分な骨の厚みや高さがないことで、インプラント体が適切な位置・深さ・角度に埋入されていないことが原因であるケースが多いです。
対処法としては、手術前のCT撮影などの精密検査で、正確に骨の厚みや高さを確認することが重要となります。もしも十分な骨の厚みや高さを確保できない場合は、骨造成術などをおこない骨量を増やしたり、サージカルガイドを用いての手術をおこなうことでトラブルのリスクを回避することが可能です。
インプラント体が上顎洞へ迷入する
上顎の鼻の周囲には「上顎洞」と呼ばれる空洞があります。上顎の骨は下顎に比べて軟かく薄いため、インプラント体を慎重に埋入しないと上顎洞内にインプラント体が迷入してしまうことがあります。 上顎洞までの骨の厚さが十分ではない場合は、事前にサイナスリフトなどの骨造成術をおこない、十分な厚さを確保してからインプラント体を埋入することで回避が可能です。
インプラント周囲炎
インプラント周囲炎とは、口腔内が不衛生になることでインプラント部分の歯茎が歯周病に罹患した状態のことをいいます。初期段階のインプラント周囲粘膜炎は、インプラントの周りに歯垢が停滞して歯周病原菌が増殖したことにより、歯茎が赤く腫れ、ブラッシングの際に出血を伴うようになります。しかし、痛みなどの自覚症状がほとんど見られないため、放置してしまうことが多く、進行すると炎症が広がり「インプラント周囲炎」を引き起こしてしまいます。インプラント周囲炎になると、歯槽骨にまで炎症が拡大して、歯槽骨を溶かし始めます。さらに放置すると、最終的に歯槽骨がインプラントを支えることができなくなり、インプラントが脱落してしまう危険性があります。
インプラント周囲炎を予防するには、口腔内を清潔に保つことが重要です。そのためにも、毎日のご自身でのセルフケアの徹底とともに、歯科医院での定期的なメンテナンスを受けることが大切になります。また、ブラッシングの仕方や食習慣に問題がある場合も考えられますので、歯科医師や歯科衛生士の指導を受けて、歯垢が付着しにくい生活習慣を身に付けましょう。
インプラント体が顎の骨と結合しない
インプラント治療は、インプラント体と顎の骨がしっかりと結合することが重要です。しかし、インプラント体を埋入するための骨量や、手術時の細菌感染、喫煙、糖尿病などの全身疾患等が原因で、インプラント体が顎の骨と結合しない場合があります。 骨量が十分ではない場合は、骨造成や骨再生術によって骨量を増やしてから手術をおこなうことが必要になります。また、手術の際に衛生管理を徹底することで、術中の細菌感染のリスクを避けることも可能です。喫煙する方は、タバコに含まれるニコチンや一酸化炭素、タールなどの有害物質が、歯茎の血管を収縮させることによって血流が悪くなり、インプラント体と骨との結合を阻害してしまうので、インプラント治療中は禁煙することが条件となります。ですが、治療後もトラブルの要因となり、インプラントの寿命を短くしてしまうことにも繋がるため、治療を機会に禁煙して頂くことをお勧めいたします。糖尿病などの全身疾患のある方は、事前にかかりつけの主治医に治療の許可を得た上で、インプラント治療を受けることが可能かどうかの歯科医師の判断が必要となります。
人工歯が外れる、破損する
インプラントを使用するうちに人工歯が外れてしまったり、破損してしまう場合があります。この場合、インプラントと天然の歯の噛み合わせの調整が適切ではなく、特定の歯に強い負担がかかり続けてしまうことや、アバットメントの締め付けが不十分であることが原因として考えられます。 噛み合わせが適切でないことは、細菌感染のリスクを高めることにも繋がることから、見た目だけでなく、正しい噛み合わせを重要視している歯科医院で治療をおこなうことをお勧めいたします。アバットメントの締め付けの適切な力は、インプラント体の種類によって異なりますが、確実に締めることで対処が可能です。